勉強会情報
主催:服部宜成(@東京大学駒場キャンパス)
日付:2019年12月25日(水)17:00〜21:00
参加者:服部(比較)、中川(比較)、渡邉(比較)
範囲:20〜25ページ (原文)
第二回予定日:未定
*議論に即して適宜訳語を考えているため、翻訳は参照していません。
より適切な訳語がある場合はコメント欄よりご指摘頂けますと幸いです。
*問い/重要な部分、議論の結果、具体例、コメントと色分けを行っています。
第一段落 (p.20 There has been a strain of)
・人生の目的を幸福とし、幸福と反省的な心の平静reflective tranquilityと考え、そして心の平静を自己充足の賜物と考えるような哲学的思索の系譜がある。このとき、自己のコントロールの範囲にないものは運の影響に晒されるために、心の平静を脅かす偶然的な脅威とされる。
→「心の平静」という語で想定されているのはおそらくストア派、エピクロス派などであろう。いわゆるアタラクシアἈταραξίαである。では、「心の平静」に至ることで運の問題がなくなるのだろうか。あるいは、運の問題に動じなくなるのだろうか。おそらく後者の方が妥当な解釈であろう。
・西洋の伝統的な古典的教義のうち、最も極端なものでは、賢人sageは偶然的な運の影響に対して動じないという一方で、賢人として生まれる、あるいは賢人となる素養を備えているといった構成的な運constitutive luckは問題となる。
第二段落 (p.20 The idea that one's whole life)
・以上のように、ある人生の全体が運の問題に動じないとする考えはおそらく珍しい。
→代わりに次のように強力で影響力のある考えが台頭してきた:道徳的価値という、運の問題に動じず、そして「無制約的」であるような価値の基礎形式が存在する。カント
正しい道徳的判断への傾向性dispositionも、そうした判断の対象objectも、以上の視点の下では外在的な偶然性から解き放たれている。Q. この対象とは一体何なのか?
→なぜなら、いずれも、互いに関係する形で、無制約な意志unconditioned willの産物productだからである。
・この立場では、性格の領域においてスタイル、権力、あるいは生得的才能endowmentよりも動機motiveが重要であるように、行為の領域において重要なのは世界に影響を与えるような変化ではなく、意図intentionであるということになる。
→以上の見通しから、古代の賢人たちが享受した構成的運の問題は無いものとされる。
・それゆえ、成功した道徳的生活という生涯careerは、そうした才に恵まれた存在者the talentsだけでなく、全ての理性的存在者ならば同程度持ち合わせているような才(を持つ存在者)にも開かれることになる。
・以上を踏まえるならば、カント主義の不快さは表面的なものに留まり、そうした印象を与える一方で、世界の不公平さという感覚に対する慰めへと私たちを誘っていると言える。
第三段落 (p.21 It can offer that solace)
・しかし、カント主義が慰めを提供できるのは、更なるものが保証されている場合に限る。
・というのも、1. 道徳的価値がその他の価値と大して変わらなければ、運の問題から解放されているからといって大して重要とは言えないからである。それゆえ、道徳的価値は何らかの尊厳dignityや重要性importanceを持つ必要がある。
・続いて、2. 仮に道徳的価値が理性的存在者ならば誰しもアクセスできるような最終手段的な価値でしかないなら、わずかな励ましencouragementしかもたらさないからである。それゆえ、道徳的価値は理性的なエージェントにとって最も基礎的fundamentalな価値という資格を持たなくてはならない。加えて、ある人がこれらを認識するにあたり、道徳性moralityの運に対する動じなさとしてだけでなく、道徳性を介した、ある人自身の運に対する部分的な動じなさとしても理解される必要がある。
第四段落 (p.21 Any conception of)
・カント主義のもとでは、あらゆる道徳的運という考えconceptionは一貫していない。
・そのほか、道徳性を運の問題に動じなくしようという試みは失望される運命にある。というのも、道徳性の傾向性は動機と意図の方向に向けられているが、これらは他のものと同様に「制約」を受けているからである。
・しかし、道徳的運が結局構成的運の問題に晒されているという点は問題としない。
・カントの考えは道徳性、合理性、正当化、そして究極的あるいは至高の価値といった様々な観念notionを繋いでいる(そして影響を与えている)。これらの繋がりは、自らの行為に対するエージェント自身の反省的評価にとって、様々な帰結を持ち合わせている。
・例えば、究極的かつ最も重要なレベルにおいて、彼がしたことが正当化されたかどうかは運の問題ではありえない、など。